飲食店に、固定費はない

虎大郎 福田

飲食店に、固定費はありません。極端に聞こえると思います。でも、そう見たほうが店の数字の動きがよく分かるし、打てる手も増えます。

家賃は固定費、と習ったけれど

経費は固定費と変動費に分けて考えましょう。経営の本を開けば、たいていそう書いてあります。材料費は売上に合わせて増える変動費。家賃は売上に関係なく毎月同じだけ出ていく固定費。

飲食店の数字をずっと見てきて、最近こう思うようになりました。飲食店に、固定費はない。

水道光熱費も、ラップも、売上で動く

まず分かりやすいところから。水道光熱費は、よく固定費の側に入れられます。でも、客がたくさん入る日はエアコンも照明も長く動きます。仕込みが増えればガスの火も長くつきます。営業日を増やせば、その分だけ電気を使います。

ラップ、洗剤、スポンジ、おしぼり。こういう細かい消耗品も、出数が増えればそのぶん減っていきます。

小規模な飲食店の決算を集めた日本政策金融公庫の調査を見ると、家賃や光熱費などを含む諸経費は、儲かっている店でも苦しい店でも、売上の3割前後でほとんど変わりません。従業者5人以上の店なら、規模が大きくなっても3割弱のままです。本当に固定費なら、売上の大きい店ほど比率は下がるはずです。下がらないのは、売上と一緒に動いているからです。

家賃は、上にも下にも動く

でも家賃は、さすがに固定費でしょう。売上が落ちても大家さんは下げてくれません。そう思いますよね。

下には動きにくい。それはその通りです。ところが、上にはあっさり動きます。

店が繁盛してきて、駐車場が足りないから隣の土地も借りる。席が足りないから隣の区画も借りる。手狭になったので広い物件に移る。売上を伸ばそうとした瞬間に、家賃が先に増えます。売上が増える前に、です。

逆もあります。売上が落ちて家賃が重くなったなら、家賃の安い物件に移って、席の数ごと小さくする。動かすのに手間とお金はかかりますが、動かせないわけではありません。

家賃は、店の箱の大きさの代金です。箱を大きくすれば上がり、小さくすれば下がる。売上の器を買っているのだから、売上と無関係なはずがありません。

固定費かどうかは、「いつの話か」で決まる

つまり、固定費か変動費かは、費目の名前で決まるわけではありません。どの場面の話をしているかで決まります。

来月の損益を考えるなら、家賃は固定費です。今の店のまま営業するかぎり、毎月同じ額が出ていきます。

でも、店を出す、広げる、移す、閉める。売上を変動させる場面になったとたん、家賃は変動費になります。厨房設備や内装の減価償却費も同じです。

「ここから売上を上げていきます」という計画で、家賃が今のまま据え置かれていたら、どこかで数字が合わなくなります。売上を倍にするには、既存の店舗や設備では実現できないことが多く、箱がもう一つ必要だからです。

売上を変動させる場面で見れば、飲食店の経費はほとんど全部、売上と一緒に動きます。だから、飲食店に固定費はない。

固定費が低いのは、売上が低いということ

こう考えると、家賃の安さを喜ぶ気持ちも、少し変わってきます。家賃が安い、固定費が軽い。一見、筋のいい店に見えます。でもそれは、箱が小さいということです。そして箱が小さいということは、売上の天井が低いということでもあります。固定費だけ低くて、売上は高い。そんな都合のいい店は、なかなかありません。

だから、事業計画を作るときに気をつけたいことがあります。売上だけが伸びていって、諸経費や家賃は最初のまま、という計画です。諸経費が売上の3割前後で動くなら、売上が伸びた分だけ諸経費も増えます。家賃も設備も、売上を大きくするなら一緒に増えていく。それが自然な姿です。

そこが動かない計画は、どこかで数字が合わなくなります。売上だけが伸びる絵は、きれいに見えて、実は一番危ない。飲食のコストは、売上と一緒に動くものとして組む。それが、この商売の構造に合った考え方だと思います。

小規模な飲食店の諸経費の数字は、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)の業種別と従業者規模別の表によります。


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