売上2,000万円の飲食店の経営を目標にしてはいけない

虎大郎 福田

年商1,000万〜2,000万円の飲食店を、自分が厨房に立って一人で始める。創業の相談でいちばん多い形です。そして、いちばん勧めない形でもあります。

売上2,000万円で、残るのは200万円

飲食店の営業利益率は、うまくいっている店でも10%前後です。金融庁が金融機関向けにまとめた『業種別支援の着眼点』も、中小の飲食店の理想的な形を営業利益10%としています。実際の小規模な飲食店の平均は、それよりかなり低い。

売上2,000万円で10%なら、残るのは200万円。1,000万円なら100万円です。ここから、自分がいくら受け取れるのかを順に見ていきます。

自分の給料を乗せても、手取りは330万円

営業利益200万円というのは、店の人件費の中に自分の給料をきちんと入れた後の数字です。ここでは自分の給料を月20万円、年240万円と置きます。手元に来るのは、給料240万円と営業利益200万円を合わせた440万円です。

ここから社会保険と税を払います。個人事業主として青色申告をしている、40歳未満の単身者を岡山市で想定して試算すると、こうなります。

項目 金額(年)
手元に来る額(給料240万円+営業利益200万円) 440万円
国民健康保険料 約45万円
国民年金保険料 約22万円
所得税 約11万円
住民税 約27万円
個人事業税 約8万円
手取り 約330万円

国民健康保険料は岡山市の2026年度の料率、国民年金は2026年度の月額17,920円、所得税は2026年分の基礎控除で計算しています。40歳以上なら介護分の保険料がさらに乗ります。

売上1,000万円の店なら、営業利益100万円と給料240万円で手元340万円、手取りは約260万円です。

時給にすると、最低賃金を割る

一人で始めた店のオーナーは、営業時間だけ働くわけではありません。仕込み、仕入れ、片付け、帳簿。週1日休んで、1日10時間で見積もっても控えめな方です。

働き方 年間の労働時間 手取り330万円を時給にすると
週1日休み、1日10時間 約3,130時間 約1,050円
休みなし、1日10時間 約3,650時間 約900円

岡山県の最低賃金は、2026年10月2日から時給1,104円です。売上2,000万円の店を自分で回して、手元に残るのは最低賃金を下回る時給です。売上1,000万円の店なら、週1日休みでも時給は約830円まで下がります。

雇われていれば、こうはならない

同じ時間を雇われて働いた場合と比べると、差はさらに開きます。

  • 年3,130時間は、そもそも従業員には働かせられない時間です。時間外労働の上限は原則年360時間、特別な事情があっても年720時間。週40時間の約2,090時間にこれを足しても、3,130時間には届きません。
  • 法定の時間を超えた分には、25%以上の割増賃金が付きます。
  • 健康保険と厚生年金の保険料は、勤め先が半分を負担します。国民健康保険と国民年金は全額自分持ちです。
  • 有給休暇があります。

もう一つ、創業時の借入があるなら、その元金の返済もここから出ていきます。減価償却費で戻ってくる分を除けば、返済の分だけ使えるお金はさらに減ります。

店の失敗のリスクを全部背負って、時給は最低賃金以下。それが売上2,000万円の店を一人で回すということです。

「小さく始めて育てる」は効かない

小さく始めて、軌道に乗ったら大きくする。ほかの商売ならそれでいいかもしれません。飲食では、これが効きにくい。

飲食店の売上は、箱の大きさで上限が決まっています。客席の数と回転には限りがあるからです。家賃20万円、10〜20坪ほどの店なら、月商はだいたい200万円前後、年2,400万円あたりが天井です。小さい箱で頑張っても、売上2,000万円の店は売上2,000万円の店のままです。

日本政策金融公庫の調査でも、従業者1〜4人の一般飲食店は、客席1坪当たりの売上が年164万円です。20〜49人の店(年316万円)の半分ほどしかありません。小さい店は、箱が小さいうえに、同じ広さで売れる額も少ないのです。

そこから大きくしようとすれば、席を足すか、広い物件に移るしかありません。そのとき家賃も内装も、先に増えます。小さく始めた店が育つのではなく、もう一度創業し直すのに近い。

家賃と売上の釣り合いは、飲食店の経営改善計画で、営業利益率を何%に設定するべきなのかで計算しています。

残したい額から、店の大きさを決める

考える順番を逆にします。売上の見込みから利益を出すのではなく、自分が残したい手取りから、必要な売上と箱の大きさを逆算します。

例えば手取りで年500万円を残したいとします。同じ条件で逆算すると、給料と営業利益を合わせて手元に約735万円が必要です。給料240万円を引いた営業利益は約495万円。営業利益率10%なら、売上は約5,000万円、月商で約410万円です。

公庫の調査では、一般飲食店の客席1坪当たりの売上は月18.5万〜22.8万円です。月商410万円を出すには客席で18〜22坪、厨房を含めた店全体で26〜32坪ほどの箱が必要です。

これだけの店を一人で回すことはできません。人を雇い、自分が抜けても回る形を最初から作ることになります。売上1,000万〜2,000万円の規模で創業するのは、勧めません。

出典

手取りの試算は概算です。個人事業主・青色申告(65万円控除)・40歳未満・単身・岡山市在住を前提にしています。


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