事業継続力強化計画実効性向上支援事業について
先日、日本中小企業診断士協会連合会(「中小企業診断協会」から名称が変更されました)が実施する「事業継続力強化計画実効性向上支援事業」を受託し、いわゆる専門家派遣という形で相談を受けてきました。
2年前ぐらいから、事業継続について学んでいるところなので、このような依頼が来るのはありがたいなと感じています。(地方では事業継続に関する需要が全然なくて、もっと仕事欲しいなと思っていますが!)
この事業はすでに事業継続力強化計画を策定している事業者に対して、計画の実効性を高めつつ計画の更新を狙う目的で、事業継続の専門家を派遣する事業です。

専門家派遣は1事業者につき4回まで可能で、1年に2回となっています。
どのような内容かというと、大きくは次の3つです。
現在の事業継続力強化計画の実施状況の確認とその評価
実効性向上に向けたアドバイス
次回申請に向けたアドバイス
事業継続力強化計画とは?あまり浸透していないBCPの入門版
ちなみに事業継続力強化計画(略:ジギョケイ)とは中小企業基盤整備機構機構が実施している事業で、初めて事業継続計画(BCP)に取り組む事業者向けの入門版BCPのことです。災害に対する備えを念頭に置いているため、防災対策に近い内容となっています。

ここ数年で、ジギョケイの取り組みが本格化しており、ウェブサイトにも非常に力が入ってきています。BCPや事業継続という考えが浸透していくこと自体は非常に喜ばしいことですが、計画の審査体制や計画の項目などについて個人的に思うところがないわけではありません。
事業継続力強化計画の実効性向上のための支援とは?面談の流れや内容を紹介!
今回の専門家派遣では、面談の進め方については定められた方法があり、計画の項目を一点一点確認し、それぞれについて助言をしながら進めていく形となっています。
しかしその一方で、面談の時間も限られているため、特定の項目を深掘りすることは難しく、総花的な助言・指導になってしまうことは避けられません。
また今回の専門家派遣では、単に助言・指導するだけにとどまらず、所定の様式を作成・提出することになっています。所定の様式には、ジギョケイ全ての項目について指導・助言した内容を書き込むことになっているため、短い時間にアンケート形式に近い形で聞き取り、フィードバックしていかなければ、提出する様式が完成しないのです。
これについては、一般的なヒアリングの方法や傾聴とは異なるアプローチなので、正直上手いやり方とは思えません。現状うまくいっていない対策についての詳細な改善方法や、事業継続戦略の見直しなどに助言の時間を使った方が有意義な面談になると思います。
事業継続力強化計画の問題点
事業継続力強化計画は、その名のとおり、事業継続計画(BCP)とは異なり、BCPほどの複雑さはなく、自然災害対策のみに限定した事業継続計画の簡易版です。
計画の中心となるのが、想定する自然災害を決定することです。地震や豪雨、などの自然災害を念頭に置いて計画を策定します。
しかし事業継続を考える上で、自然災害のみを想定することは正しくありません。というのも、自然災害以外でも事業が停止するリスクは至る所に存在するからです。自然災害だけを想定した事業継続計画は不十分であり、あまり役には立ちません。

また、実際に事業継続計画に取り組んでいく上で、地震や洪水などの対策をしようとすると、非常に費用がかかる上、費用対効果も計算できません。例えば、工場の移転や生産ラインの多重化など、短期的な経営視点からだけだと収益性が悪化します。
自然災害を念頭に置いてBCPに取り組んでいくと、どうしても大企業の取り組みに近くなり、中小企業(特に規模の小さい企業)には適さないことが多く、中小企業の経営者に災害対策についての話になると、「もし地震があって被害にあったときは事業を畳むしかない」という話になりがちです。
自然災害への対策をどう考えるか
仮に大規模な地震が起こって、業務ができなくなった場合、復旧もそのほかの手立てもないということになれば、それは仕方のないことです。もちろん事業を続けることができればいいのですが、どんな状況下でも事業を続けることは現実問題として難しいです。
そこで、私が事業継続について説明する際には、そのような壊滅的な被害のリスクを残存リスクとして設定しておくことをお勧めしています。残存リスクに設定したものについては、対策できないリスクとして、あえて対策しないことにします。全てのリスクに対応しようとしないことで初めて、中小企業にとって「取り組める事業継続」となります。
中小企業においては全ての状況に対応することはヒト・モノ・カネの面から難しいです。できることから取り組み、できないことは残存リスクとして常に意識しておくことが、事業継続に取り組む一つの方法です。
自然災害への対策はもちろんできることであれば、取り組みを進めていけばいいですが、すぐに取り組めないことや、この先当分取り組むことができないものについては、残存リスクとしておくのが良いでしょう。
本来の事業継続の取り組みとは
事業継続を考えるときは、自社の業務が停止したらどうするかを考えることが一般的です。災害や事故の種類を問わず、業務が停止した場合どうするかを考えることが本来の事業継続のアプローチです。
例えば、「受注業務が停止してしまったら」、「納品作業ができなくなってしまったら」などを想定して、その業務や作業はいつまでに復旧しなければならないかを考えるのが、事業継続のアプローチです。

専門家派遣事業のまとめ
今回はこのようなことを念頭に置いて、事業継続力強化計画の改善に関する助言を行ってきました。
事業継続については当社も、最新の事業継続の取り組みについて勉強会等に参加し、学習を続けているところですが、地方においては事業継続の専門家が非常に少ない印象です。
事業継続の取り組み方については、今後もできるだけ正確な情報を発信していきたいと思いますので、興味がある方はこの「事業継続力強化計画実効性向上事業」だけでなく、相談や研修依頼などぜひご連絡ください。
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