スモールスタートとは何か。創業には当てはまらない理由
スモールスタートは創業者のための考え方ではありません。すでに事業が軌道に乗っている企業が、新しい事業を小さく試すときの考え方です。創業の相談でこの言葉が出てくるとき、ほとんどの場合は別のことを指しています。
創業支援の現場では、金融機関様や支援機関様からのアドバイスとして「まずはスモールスタートで」が定番になっています。私も中小企業診断士として創業の相談に同席しますが、この言葉が本来の意味で使われている場面はほとんど見ません。この記事では、スモールスタートの本来の意味と、創業には当てはまらない理由を整理します。
スモールスタートとは
スモールスタートとは、事業を始めるときに、予定している規模より小さい規模から始めることです。小さいというのは、次のようなことを指します。
- 初期投資が少ない
- 固定費が少ない
- 少ない人員で運営する
- 提供するサービスを絞り込んでいる
- 売上の規模が小さい
ここで大事なのは、「予定している規模」があることです。最終的にどこまで大きくするかの計画があって、そこに向かう最初の一歩を小さくする。それがスモールスタートです。
例えば、ある企業が飲食の事業部門を立ち上げるとします。最初から複数の店舗を出すのではなく、まず1店舗を出して様子を見る。これがスモールスタートです。新しいアプリを作る場合なら、予定している10の機能を全部作ってから出すのではなく、中心になる2つの機能だけで提供を始め、利用者の反応を見てから残りを作る。これもスモールスタートです。
どちらの例にも共通しているのは、すでに本業があり、人も資金も持っている企業が、新しい事業で最初から大きく賭けないようにしている点です。
スモールスタートは、あとから大きくする計画とセットになっている
小さく始めることだけを取り出してスモールスタートと呼ぶのは、半分しか見ていません。もう半分は、最初の一歩のあとに、どうやって予定している規模まで大きくするかの道筋です。この道筋がないものは、スモールスタートではなく、ただ小さい事業です。
飲食店で考えてみます。ある企業が飲食の事業部門を作り、まず1店舗を出したとします。1店舗の売上は年間3000万円ほどで落ち着きました。ここで様子を見て、うまく回ることが分かったので、1年後に2店舗目を出します。2年後に3店舗目。この時点で売上は年間9000万円になります。さらに次の店を出すかどうかは、3店舗の数字を見て決めます。これがスモールスタートの全体像です。最初の1店舗は、将来の数店舗のための試しです。
飲食店では、この「店舗を増やす」以外に大きくする方法がほとんどありません。店を作った時点で、客席数と厨房の設備で売上の上限が決まってしまうからです。同じ店で売上を2倍にすることはできませんが、同じ店をもう一つ作れば2倍になります。だから飲食店のスモールスタートは、最初から「次の店を出す前提」で1店舗目を設計することになります。
ここで大事なのは、1店舗目がきちんと利益を出していることです。1店舗目が年間3000万円の売上で利益が残る規模になっていなければ、2店舗目を出す資金も、任せられる人も育ちません。小さく始めたあとに大きくなる道筋は、1店舗目が適正な規模であって初めてつながります。

スモールスタートとダウンサイジングの違い
金額で言うと、スモールスタートは「1億円かけて始めるのではなく、3000万円で始めてみる」という話です。「3000万円の計画を800万円に縮める」という話ではありません。人員で言えば、「最初から正社員を10人雇うのではなく、異動させた3人とパート・アルバイトで回してみる」という話であって、「一人で回せる規模にする」という話ではありません。

当初の計画を縮めて規模を小さくすることは、ダウンサイジングと言います。本来必要な設備や人員を削ることなので、スモールスタートとは別のものです。
創業支援の現場では、この二つが混ざって使われています。創業者が計画を持ってくると、「もう少し小さくできませんか」と返す。それをスモールスタートと呼んでいる。実際に起きているのはダウンサイジングです。
創業者は、どうやってもスモールスタート以下の規模にしかならない
さきほどの例を思い出してください。従業員が100人いる企業が、お試しで出す1店舗。それがスモールスタートの規模感です。
創業者が始められる事業は、この規模にすら届きません。どれだけお金を借りても、本業を持つ企業が片手間で出す1店舗より大きく始めることはできないのです。つまり創業者は、最初からスモールスタート以下の規模でしか事業を始められません。
そこにさらに「スモールスタートでやりましょう」と言うのは、小さいものをもっと小さくしろと言っているのと同じです。「創業はスモールスタートがいい」という考え方そのものが、創業者には当てはまりません。
少ない資金と人員で始めると、競合に勝てない

「初期投資は1000万円くらいで、従業員は雇わずに始める」。これをスモールスタートだと考えている金融機関のご担当者様は少なくありません。しかし、そういう事業は他社に勝てません。人・設備・資金の準備の時点で、すでに負けています。
創業者が戦う相手は、同じように小さく始めた創業者だけではありません。本業で稼いだ資金と人を持ち、余裕をもって新規事業に参入してきた企業も同じ市場にいます。資金の面で最初から大きく離されていれば、勝ち目はありません。
創業支援に金融機関様の役割があるとすれば、資金の面だけでも他社と戦える条件を創業者に用意することだと思っています。それができないなら、創業支援をする意味はあまりありません。
スモールスタートとは、最初から大きく賭けないことです。手元の資金が少ないことではありません。手元の資金が少ない時点で、他社に勝つことは難しくなります。
創業で考えるべきは「小さく」ではなく「適正な規模」
創業者に必要なのは、小さく始めることではなく、その事業が成り立つ規模を知ることです。
飲食店であれば、業態ごとに、利益が出る客席数と人員の組み合わせがだいたい決まっています。その規模を下回って始めると、売上が伸びず、人件費や固定費の割合が高いまま固定され、黒字になっても次に進む体力が残りません。これではそもそもスモールスタートとは言えません。
適正な規模をどう見つけるかは、別の記事で書きます。飲食店は製造業とサービス業の両方の性質を持っていて、設備と人員で売上の上限が決まる業種です。その構造を知ったうえで、成功している他社の規模を観察するのが近道です。
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